第2回: シリコンにフェムト秒レーザーで穴を開ける——GPUシミュレーション“予習編”

要約:本番の「Si 薄膜 × フェムト秒レーザー」分子動力学を成功させるため、まず Quantum ESPRESSO で基礎データを収集しました。A100 80GB ×4 機での実測時間を整理し、どのケースが穴あけシミュレーションの何を支えるのかをストーリー仕立てで説明します。さらに、H200 NVL に置き換えた場合の時間短縮効果も展望します。

TL;DR液体化と空孔形成が最重量級。A100×4 で 1 ステップ 70–95 秒、総時間は 2.8–3.7 時間級。Bulk/Strain は 1 ステップ 2–3 秒台で網羅向き。H200 NVL×4 なら概ね 1.7–2.3×(推定)短縮、8GPU でさらに半減レンジ。


なぜ“予習”が必要か:ケースの役割を物語で理解

① Bulk(バルク)=「健康診断」

シリコン結晶の標準状態を決めます。これがないと、レーザー照射後の「異常」を正しく比較できません。

② Strain(ひずみ)=「耐久テスト」

引張・圧縮で材料の応力–歪み特性を把握。レーザーによる瞬間的な膨張・収縮を理解する基盤となります。

③ Liquid(液体化)=「氷が解ける瞬間の再現」

レーザー直下では Si が溶融します。液体状態を正しく記述できなければ、溶け拡がりや再凝固の描像は成立しません。計算負荷は最重量級。

④ Void(空孔)=「割れ目のタネ」

欠陥や空孔は、穴あけの起点になります。局所的な応力集中や熱流入を理解するために必須です。


A100×4 実測まとめ(WALL 時間)

総時間ランキング

カテゴリ ケース 総時間 (秒) 備考
最重量級 strain_extra/strain_extra_T600K 13260 ひずみ拡張大規模
重量級 voids/void_strain_+00pct_T300K 10500 空孔シミュレーション
重量級 voids/void_strain_+05pct_T300K 10080 空孔シミュレーション
液体 liquid/liquid_T3000K 1115.99 溶融 Si 高温
液体 liquid/liquid_T2000K 570.22 溶融 Si 中温

1ステップあたり時間ランキング

カテゴリ ケース calls sec/step
最重 liquid/liquid_T2000K 6 95.04
liquid/liquid_T3000K 16 69.75
比較的軽 bulk/bulk_strain_+00pct_T600K 100 3.49
比較的軽 bulk/bulk_strain_+10pct_T600K 100 3.46
比較的軽 bulk/bulk_strain_-10pct_T300K 100 3.39

集計ソース:qe_prod/*/*/out.pw より WALL 時間を抽出。


GPU スケーリング展望

今回の A100×4 実測を基準に、H200 NVL 導入時の短縮効果を推定します。

  • A100×4 → H200 NVL×4:性能比から 約1.7–2.3倍 の高速化を期待
  • H200 NVL×8:さらに 約2倍 の並列効率向上を見込む(理論値ベース)
  • 液体・空孔ケースでは数時間規模 → 1時間未満へ圧縮 可能性あり

まとめ

フェムト秒レーザーによる Si 薄膜穴あけシミュレーションは、ただ「照射して観察」では動きません。Bulk / Strain / Liquid / Void の多面的な“予習”を積み上げて初めて、正確かつ説得力ある描像が得られます。

そして、この重い計算を支えるのが GPU サーバ。今回の A100 実測と、次世代 H200 NVL のスケーリング予測は、そのまま GPU サーバ導入の ROI 試算にも直結します。


次回予告

次回は、今回の下ごしらえ結果を DeepMD 学習に投入し、いよいよ「Si 薄膜 × フェムト秒レーザー照射」の本番分子動力学シミュレーションに挑みます。ここからが GPU サーバの真価が問われる場面。H200 NVL の導入効果を可視化し、導入検討の材料となるデータを提示していきます。